
2025/05/28
コラム
「成熟できない日本」 ―日本人が忘れている二つのこと― ③
日本のあらゆるリーダーの方たちへの提案レポート
「成熟できない日本」 ―日本人が忘れている二つのこと―
今回は3つ目のコラムをお届けします。今回から具体的な処方箋のいくつかを提案してみたいと思います。
目次
10. リーダーシップに裏打ちされた日本の未来を創るアクション... 1
世界一の高齢化社会であることを活かす... 2
在留外国人を生産人口化する... 3
日本人のもつ隠れたグローバル力を活かす... 4
10. リーダーシップに裏打ちされた日本の未来を創るアクション
リーダーシップの輩出と日本の骨格となる価値観を作ることは時間がかかる大作業になると書いた。その一方で、並行して進めるべきことは、経済成長のモデルを作ることと社会的成熟度の向上だ。それらの実現に向けた戦略を考えるまえにSWOT分析を日本という国家にあてはめて整理してみたい。
① 強み (Strengths)
・ 高度な技術力と製造業の競争力
・ 豊富な文化遺産と観光資源
・ 高い教育水準と識字率
・ 安全で安定した社会インフラ
・ 世界第3位の経済規模
② 弱み (Weaknesses)
・ 少子高齢化による人口減少
・ 労働生産性の低迷
・ 社会保障制度の持続可能性の課題
・ 中小企業の投資力不足
・ 非正規雇用の増加による所得格差
③ 機会 (Opportunities)
・ 高齢者や女性の労働参加拡大
・ デジタル化やAI技術の活用による生産性向上
・ 環境技術や再生可能エネルギー分野での成長
・ アジア諸国との経済連携強化
・ インバウンド観光の潜在的成長
④ 脅威 (Threats)
・ 円安傾向の継続による輸入コスト上昇
・ グローバル競争の激化
・ 地政学的リスクの増大
・ 気候変動による自然災害の増加
・ 急速な技術革新に対する適応の遅れ
このSWOT分析で抽出した強みを活かしながら弱点をカバーしつつ同時に機会を具体的なチャンスに結び付け脅威にも備える方策を考えたい。まず、経済成長モデルの見直しを考えたい。
▪世界一の高齢化社会であることを活かす
年金受給者ともなると高齢者は「お荷物扱い」というのがこれまでの正直な姿だと思う。しかし今後は逆手にとって日本は「高齢先進国」と位置付けたらいかがだろうか。
日本は長寿世界一であり元気な高齢者も多い。まだまだ活躍できる人も多い。このような方が持つ知見を活かして「年金をもらう人」から「GDPを稼ぐ人」に転換することを真剣に考えるべきだ。生産人口を増加に転じることは難しいかもしれないが低下にブレーキをかけることはできるはずだ。
東名高速を下り方向に走って神奈川県大和市に差し掛かると横断幕がいくつかかかっている。その中の一つに「70代を高齢者と言わない町大和市」というものがある。明快かつ勇ましい。2009年に人・まち・社会の3つで健康づくりを進めるという「健康都市」の宣言に端を発し高齢者の自立や活躍をめざすことになったらしい。
面白いのは、この標語は当初「60代を・・・」だったことだ。それが数年後に現在の「70代を・・・」に変更したそうだ。やがて「80代を・・・」に再び変更される日を著者は心待ちにしている。意識改革が社会変革の起点となり得ることを示唆しているこの標語が著者は好きだ。
話を変えるが著者は43年間も務めた会社を昨年退職して再就職した経験を持つ。再就職活動においては手始めにネット上の転職サイトに登録して希望の条件を入れた。そうすると毎日たくさんの求人情報が届く。これにせっせと応募するまでは良いのだがその後進展することはまれだった。65歳という年齢は社会から受け入れられないのだと感じざるを得ない状況となった。
この再就職活動で特に違和感を持ったのが履歴書だ。日本では厚生労働省の履歴書が標準的な書式でありハローワークでも使用するように呼び掛けている。この書式は著者が40年以上前に使った書式とほとんど変化がない。当然のように年齢を書く欄がある。海外では履歴書に年齢を書く欄がそもそも存在しないことが多いけれど日本では変化がないのだ。
企業では終身雇用制度が実質的に無くなってきている。その代わりにジョブ型人材管理に移行している。これは専門的スキルに応じて採用を決めることが根源にある。早くからジョブ型が通常の雇用制だった海外ではスキルや経験を書くことはあっても年齢は問われないのが普通だ。日本も早くそのようにすべきと思う。
もちろん高齢者本人にも自分のスキルを磨き続ける努力が求められる。体力・健康の維持も然りだ。おかれた立場で初心に帰って頑張ることも求められる。長い間企業で管理職にとどまってふんぞり返ってスキルを磨く機会がなかった人にとってリスキリングは難しいものになろう。
もう一つのアイデアとして日本の高齢者を対象とした事業は今後高齢化を迎える海外にとってベンチマークとなりうる。これを日本が世界をリードする産業に変貌させていくのはどうだろうか。そして日本発の高齢者向けデジタルサービスや製品の海外展開を促進する機会は高齢化を迎える中国などで十分ありそうだ。
さらに日本の個人金融資産の額は2024年6月末で2,212兆円にも達するという。このうち55歳以上の個人が金融資産全体の7割以上を保有している計算になるそうだ。伝統的に高齢者は預金が中心のためその巨額な預金が投資に回っていないのが長年の課題だった。将来が不安なため投資にまつわるリスクは避けたいという心理が影響しているのがその要因だろう。リスクを限定したうえで、人材育成投資やデジタルサービス事業化に向けた投資原資にできるように検討すべきだ。
高齢者の潜在能力活用と若年層のエンパワーメントを同時に推進する戦略は、多世代が共存する組織マネジメントの鍵となろう。特に、世代間の知識移転と相互学習を促進する仕組みづくりは、組織の持続可能性を高める上で重要だと思う。
▪在留外国人を生産人口化する
在住できる期間は人によって長短があると思うが、在留外国人は年々増加している。出入国在留管理庁のデータによると、2024年6月末現在で日本における在留外国人数は358万8,956人となっている。日本の総人口の約2.5%を占めている。しかも増加傾向にある。
在留外国人数をもっと増やしていくことが生産人口減少への対応として不可欠なことと思える。先に述べた生産する高齢者への転換と相まって生産人口の維持は可能かもしれない。
円安が進む日本では報酬が目減りするかもしれないが比較的治安が良く清潔な国で働きたいという人も一定数いる。これまで日本語が大きな障壁となってきたが生成AIによる翻訳の正確さやスピードは言語の壁をかなり低くできそうだ。最近ではTimekettleなる非常に優れたリアルタイム翻訳機も出てきた。
中学生や高校生レベルのホームステイをもっと拡大することも海外を深く知る機会となり追い風となるだろう。受け入れる家庭にとっても良い勉強の場となるはずだ。受け入れ家庭の金銭的負担を軽減するために行政の補助や税制の優遇があると弾みがつくと思う。
「まず内需で弾みをつけて次いで海外市場に適用して稼ぐ」経済成長モデルはかつて高度成長期の日本と同じだが、今後は高齢化が進むベビーブーマーと在留外国人で弾みをつけるという構図にすべきではないだろうか。
▪日本人のもつ隠れたグローバル力を活かす
多くの日本人にとってグロ-バルというと頭が痛いのは英語だと思う。しかし、日本人にも優れたグローバル力があるのだ。著者が経験したグローバルな仕事を通じて感じた点は例えば以下のようなことだ。
聞く姿勢
・ 自分の主張をする前に相手の主張を聞き、情報をできる限り多く集めてから問題の本質を分析する。そのうえで全体的な視点のもとで効果的な対策を提案するというような、聞くことから始まるコミュニケーションができることが優れた点だ。
・ この美点は、いったんこじれてしまった関係を海外では当事者同士ではなかなか修復困難だが、第三者がお互いの言い分をきちんと最後まで聞くことが大事だと思う。決して主張することだけが大事だとは思わない。ましては、英語の巧拙ではないのだ。こうしたことは、洋の東西を問わず同じことではないなではと思う。
・ こじれた関係修復のみならず、通常の議論であっても聞くことから始めることは実は難しい。特に生存競争の激しい米国では、主張してなんぼの価値観があって主張が激しく、ぶつかり合うと相手を指さしながら面罵することもある。一方で、話を聞くことから始められる人は少ないと思う。
・ コミュニケーションは、話を聞くことから始めるのが重要だ。そのうえで寄り添って解決に向けて一緒に進むというアプローチが自然にとれることは日本人の優位な点だと思う。日本人が自分自身で気が付きにくい優れたグローバル力なのだ。
細部へこだわる一方で視野も広い
・ 日本人は、参加するプロジェクト全体の意義、目的、ゴールを理解したうえで、自分に割り当てられた役割を果たそうというバランス感覚が優れていると感じることが多い。多くの人は、細部へのこだわりと全体視野がバランスしている。
・ 欧州でのオフィス移転の際にもこの問題が発生してしまったので、理由を担当者に聞いたところ「移転の噂は聞いていたが、移転委員会に呼ばれていなかったので初動が遅れた。私のせいではない。」と現地人担当者は平然としていた。
・ 本来は、移転の噂を耳にした段階で総務部門に問い合わせて、問題が発生しないようなアクションをとるべきなのに、自分の責任が及ばない限りは見て見ぬふりをすることがあるのだ。全体最適の視野を欠いた感覚と言わざるを得ない。日本だったら、こうした姿勢は批判の的になろう。
チームを優先する行動と丁寧な仕事
・ これもバランス感覚の一つかもしれないが、特に納期を守るためには、主体的に残業したりして自分の責任範囲を仕上げて次の工程に引き渡そうと努力をする。チームで挽回策を練って、互助精神で乗り切ろうとする。相手のことを考え丁寧な仕事を追求する。
・ この点も、海外のメンバーは弱いケースが目立つ。納期がひっ迫していても、家族、個人のことが最優先で、顧客やチームでの約束納期は二の次としている人が多い。もちろん例外的な人はいるにはいるが。また、全体感をもって相手の立場になって進めないため、矛盾があったり前提がそろっていないことを押し付けたりすることがあり仕事が雑に見えてしまうことが多い。
ここに掲げた例は海外駐在や長期出張を終了して帰国してある程度の時間が経過した後に気づいた。一定期間クールダウンして頭の整理の時間を必要としたためだ。日本では当たり前に行っていたことなのでその時は気づかなかったけれど後になって日本人が持ち合わせていた優位点なのだと気が付いた。
先に在留外国人政策への取り組みを強化する必要性を書いたが、ここ示したグローバル力をフル活用していけば日本の企業組織や自治体組織に海外の人材を含めた多国籍なチームを作って運営していけるはずだ。
日本の組織で活躍した人がやがて母国に帰国したあとも、日本で触れた価値観や技術を持ち帰ってグローバルスタンダードに昇華させる起爆剤になる可能性もある。
日本の職場で働いた方が日本のファンになってくれると、さらにその国のビジネスで日本の製品・サービスが受け入れられやすい土壌を醸成してくれるだろう。そうなると日本製品・サービスの差別化につながる可能性が出てくる。
2025年5月
ベストスキップ株式会社 シニアITコンサルタント 菅宮徳也
― 著者紹介 ―
大手電気メーカでIT関連の経験を積み2024年7月よりベストスキップ株式会社にてシニアITコンサルタントとして従事。

✓ 東南アジア向けメインフレーム営業・事業企画
✓ 金融機関向けITシステム活用研究・コンサルティング
✓ 金融機関向けシステムインテグレーション事業企画
✓ 米国ITシェアードサービス拠点設立・運営
✓ グループIT・セキュリティガバナンス
✓ グループ標準アプリ開発・運用
✓ 鉄道車両・信号システム事業部門(本社は欧州)の国内CIO